二ノ姫と村人の成長

ドニリズ
小説
捏造設定あり
連載

暫くして、戦争はさらに激化していった。

 人々がギムレーの放つ絶望に染まっていった最中、ドニをはじめ若い者たちはいつの間にか次々成人する年齢になっていたが、誰もそれを祝う余裕などなかった。

 ドニは軍の中で力をつけ、いつの間にか前線で戦う兵士に成長していたが、リズはそれを良く思っていなかった。戦前に立つドニはシスターのリズから遠い場所にいつも立っていた。そしてそれは、死と隣り合わせの、一番危険な場所だった。

 ルフレの提示する戦略には、彼の隊を単身敵陣に突っ込ませる危険なものも多かった。リズだけがそれに反対したが、誰もそれを聞き入れなかった。それほどに、彼は強くなっていたのである。

 ドニは機転もきき、彼の隊が孤立してルフレの指揮下から数日離れても生き延びる術を心得ていたし、どんな状況でもドニは兵士を見捨てることはしなかった。それは彼が入隊時誰よりも弱く、戦の恐ろしさを肌で感じてきた経験があったことも要因かもしれない。
 時に隊長の立場として冷酷な判断をあおがれても、自分一人で打開する力と知恵を持っていた。ドニがフリーの傭兵であったなら各国から引っ張り凧だったろう。

 数年前より体も大きくなり、戦士と言って申し分ない体躯をしたドニを見て、虚弱な村人の青年だった頃を思い出す者は少なくなっていた。

 ドニは隊を任されるようになると、軍略についての本を読み耽ることが多くなった。リズとの時間はさらに削られていくことになったけれど、二人は出来る限り時間を作って語り合うように努めた。ドニは軍略以外にも農業や経済学、考古学の本を興味深く収集し、本で仕入れた感動を時間の許す限り妻に言って聞かせた。

「ドニ、怪我したの?!」

 交戦直後、リズがドニの居る野営地へ駆け込むのはもう恒例のようになっている。周りの兵たちは日頃のドニの功績とリズ王女の心配を目のあたりにしていたから、誰もそれを咎めはしなかった。ドニはあの頃と変わらない優しい笑みを彼女に向けて手を振る。

「掠り傷だべ。ほら」

 そう言って剣の刺し痕を残した鎧を脱いだ。リズが傷を確認すると、杖でライブをかける。優しい光がドニを包み、傷がゆっくり癒えていく。息をついた彼を、リズはそっと抱きしめた。そして軽いキスを交わすと、彼女は足早に去っていった。戦いの最中は兵士に気の休まる時はないが、戦いが終わるとシスターやナース達の方が忙しいのだ。その最中リズはいつも短い時間でドニの様子を見に来る。
 二人が触れ合う時間など、ほんの数分だ。それを寂しいと思う暇もなかった。生きるか死ぬかの瀬戸際だった。そう、この戦いを勝利で終わらせなければ、世界が終わり、人は皆死ぬ。けれどそんな恐怖よりも、ドニはその戦いの最前線に立っていることを誇りに思っていたし、それで妻を守れるのなら何も怖いものはなかった。彼の勇敢な戦いは、リズへの愛の証でもあった。妻が良く思っていないこともわかっていたが、それでもどうすることもできなかった。

 一度だけ

「行かないで」

 と我が儘も言われたが、その一度だけで、リズは笑顔で彼を見送った。かつての少女も、今は大人になっていたのである。彼が自分の兄や周りの英雄たちと肩を並べるほど力を持っていることを、頭では理解していた。だからひたすら、この戦いが勝利で終わることを祈った。