残酷な世界で
!!!Caution!!!ご注意ください!!!
アンダーテールAUのアンダーフェルのAlphyneです。
ゲームは未プレイで設定もオリジナル要素強めです。
このサイトのアンダーフェルのAlphyneについてはこちらをご参照ください。
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弱いものは搾取されて虐げられる世界に産まれ落ちたてしまった。モンスターなんて言う種族は本当に醜悪だとアルフィーは心底世界を憎んで吐き捨てる。運悪く弱い肉体で構成されてしまった自分のトカゲの体は全く役に立たず、しかし幼少期から機転が利いたため、こんな体でも頭を武器に生きてこれたのだ。王にメタトンを評価され地位を与えられてから自分の生きる目的はただ生きるためだけでなく憎悪を如何に発散するかに彼女の研究は向いた。
残酷な王が統治する世界では残酷でないものは死ぬのだ。
結果、自分は運が良かった。搾取する側に立った。だがどうだろう、こんな醜い世界で他者を虐げて生きているだけなのはなんと虚しいことか。運悪く弱い立場になったモンスターに冷たい目を向けながら、アルフィーはそうすることで自分と彼らに境界線を敷いていた。そうでなければ狂いそうだった。副作用の強い薬物のような思考はアルフィーをだんだんとイラつかせ、「悪いのは私じゃない。この世界だ」と思うようになっていった。
「人間が来たって本当か?!」
アンダインがラボへ飛び込んできた。まっすぐにアルフィーに駆け寄り彼女を抱き上げる。
「勝手に触らないでって何度言えばわかるの」
彼女の頬をひっぱたいて離すように訴えたがアンダインは構わず嬉しそうにアルフィーに頬擦りした。
「今日も可愛いな女王様」
叩かれたのに上機嫌なアンダインはアルフィーをしばらく愛でるとやっと彼女をチェアへ戻す。
(こいつだけは何を考えているかわからない)
分厚い眼鏡の奥からアルフィーはアンダインを見上げた。王の親衛隊ロイヤルガードのリーダー、アンダイン。王の命令ならどんな冷酷なことも平気でやってのける狂った集団のボスだ。彼女は傍若無人で誰も制御できない厄介なモンスターで悪名高かった。
それがアルフィーの前で従順な犬のようにおとなしくなり言うことを聞く。一番驚いているのはアルフィーだった。だがそれも最初だけだ。
(私に惚れたなら好きにしてやる)
使えるものはなんだって使う。この魚人が自分に惚れているのなら、理由はともかく利用させてもらおうと思った。
・・・
出会った時の魚人はアルフィーの目には巨大な岩のように見えた。見るからに強い。誰も言うことをきかせられないような、誰の言葉も届かないような凶悪の顔。笑うとダイヤも砕きそうな牙を惜しげもなく見せた。
それは王の謁見室。アズゴアが部屋へ消えると、アンダインが新しい玩具を見つけたようにアルフィーに話しかけてきた。噂のマッドサイエンティストが小さなトカゲの女の子なのが意外で興味が沸いたのだ。だが
「あんたみたいな強いモンスターが一番ムカつくの」
アルフィーは怯むこともせずそう言った。アンダインは一瞬驚いた顔をしたが、彼女のそれに対する返答は
「私、お前みたいな強い物言いする女大好き」
だった。こちらの話を微塵も考慮していない返しにアルフィーは心底呆れる。自分の弱さを馬鹿にされた気がしてプライドが傷つき徐々に苛立ちが募った。恐らく、そうやって生意気な態度をとればとる程彼女の加虐心を刺激するのだろう。何人の女モンスターが弄ばれたか知れない。
「噂じゃタチの悪いレズビアンらしいね。何人食ってきたの?」
「興味あるか? シてみる?」
「私を襲おうってんなら舌噛んで死んでやる。そうしてから私の死体で遊んだらいいけど、どうなっても知らないから」
「毒でも仕込んでるのか?」
「かもね」
「効かないんだ、私」
アンダインはニヤリと笑った。聞いたことがある。何度もアンダインの暗殺を企てたモンスターたちから毒を盛られた彼女はその度に驚異的な回復を見せ、今では既存の毒では殺すことが出来なくなっているとか。噂ではないらしい。相当恨まれているのだろう。
「あんた絶対に良い死に方しないよ」
「……」
アンダインはアルフィーをじっと見つめた。
「私の番にならない?」
「嫌」
アルフィーは反射的に言い返してから言われたことに驚いた。アンダインは番を持たないと言われていたのだ。強いモンスターにとっては美味しい奴隷制度のような番のシステムだが、アンダインほど強力なモンスターであればそんなもの必要ないのだろう。
弱いモンスターにとっても強いモンスターの奴隷になることでシングルより比較的安全を確保できるため好んで乗る者も居る。畏怖されるアンダインと番になりたいモンスターは多かったが、アルフィーにそんなことをするつもりは無かった。
この地下世界でトップクラスのモンスターアンダインの番になるということは彼女の奴隷になるというのも同義であるからだ。
「お前を私の番にしたい」
アルフィーにはそれは「奴隷にしてやる」という言葉に聞こえた。
(冗談じゃない)
「嫌って言ってるでしょ。聞こえなかったの?」
「でも、欲しい」
「私はあんたのモノじゃないッ!!」
弱いモンスターだった周りの大人は皆モノのように扱われて死んでいった。自分がそうなってたまるか。アルフィーは眼鏡をずらしてアンダインを直で睨んだ。
「も、モノ扱いなんかしないぞ、アルフィー」
「気安く名前を呼ばないで」
「じゃあ、女王様って呼ぶ?」
「そうね。私の奴隷になるなら、番になってやってもいいわ」
「本当か?」
アンダインから予想外の返答が来て、アルフィーは出鼻をくじかれた。
「お前の奴隷になるよ」
この魚は馬鹿なのか? そう声に出しそうになる。口約束などこの世界で何の意味も持たない。強いアンダインと番になったら弱い自分は彼女のモノとなるしかないのだ。
「そんなの信じるわけないでしょ?」
そう言い捨ててアルフィーは王の謁見室を出て行った。
それ以来アンダインからの求愛は続いている。アンダインはアルフィーを「強い」と言って褒めるが、なんのことはない、アンダインに強く物が言えるのは殺されても構わないという自暴自棄な感情のためだ。
(煩いモンスターね。私は強くないのよ)
あの無骨な手で一思いに殺してくれたらどんなに楽だろう。だが、アンダインはなぜかアルフィーにだけは非常に優しく接した。ソウルが手に入らなければ体だけでもと懇願されたが、ベッドの上で勝手にアルフィーの体に触れるのを彼女は禁じた。言うことをきくはずないと思いながらも、しかしアンダインはその言いつけを守ってアルフィーのされるままになった。焦らしてこの怪物を怒らせ、いつか殺されるのだ。そう思っていたのに、アンダインは嬉々としてそれを受けながら、時折我慢できずにアルフィーの言いつけに背いてその腕力で彼女を抱いた。そこにアルフィーを責めるようなものは無かったし、アルフィーがその度にアンダインを罵倒しても叱られた犬のように体を縮めておとなしく叱責を受けるのだった。
・・・
「いつ殺してくれるの」
「お前が望むならすぐにでも」
アンダインはアルフィーのデスクのモニターを見た。その声で回想から覚めると、アルフィーはモニターを一緒に見上げる。アンダインはカメラに写っている人間の姿を指した。
「ああ、人間ね。別に、あなたが行かなくたって、ここに辿り着く前に誰かが殺すでしょ」
「アズゴアがソウルを欲しがってるんだ。欲深いこった。もう七つ取り込んでるのに」
「だから、誰かが持っていくって。王に背いて勝手に取り込んだりしないわよ」
「アルフィーがそう言うなら、放っておく」
でも、この犬(魚?)を使ってソウルを先に手に入れてしまえば……? まだ未知数の人間の魂だが、もし自分が上手く使えればどんな破壊力を手できるだろうか。
「考え事か。女王様」
言うのは簡単だ。甘い声を作ってアンダインに「お願い」といえば彼女はどんなことでも聞いてくれる。だが、アズゴアに逆らうことになるだろう。一度片目を王に抉られたアンダインがそんなことできるのか。アルフィーは少し考えてから、流石に無理、と判断した。いくらこの魚人が自分に心酔していても、それは叶うまい。だが、アルフィーは試すように
「私に人間のソウル、持ってきて」
と呟いた。
「えっ」
「嫌ならいいわ」
アルフィーは手を振ってアンダインから目を逸らした。なぜか自分のソウルの動悸が上がる。毎日飲んでいる薬の副作用に似ていた。
「アルフィーが望むなら今すぐ奪ってくる!」
「え……!」
アンダインは直ぐに駆け出そうとした。
「待って!!」
咄嗟に叫ぶアルフィーの声に、アンダインが駆け出した足を止める。
フットワークが軽いのにも程がある。浅慮に見える魚人の行動に苛立ちと戸惑いを感じながらアルフィーがアンダインに駆け寄った。
「馬鹿なの? どういう意味か解ってる?」
「人間のソウルが欲しいんだろ?」
「アズゴアに殺されるよ」
「でも、アルフィーにお願いされちゃったし」
アンダインは真面目腐って言ったが、アルフィーはそれを笑い飛ばした。暫くして飽きたように口を尖らせるとアンダインを一瞥する。
「……やっぱり要らない」
「どうして」
「要らないのッ!」
アルフィーが叫んで魚人を睨と、それに苦笑いをしてアンダインは頷いた。そしてご機嫌を損ねてしまったアルフィーの機嫌を取り戻そうと彼女の前に跪いて黄色い手の甲に頬擦りした。
「そんな顔するな。今日は他に、私に頼み事はないのか?」
「無いよ」
「じゃあ、今晩は上になっちゃダメ?」
「そんなにセックスがしたいなら別のメスとして」
「もうアルフィーじゃないとダメなんだ私」
「調子の良い事言わないでよ、クソビッチ」
「本当だ」
「鬱陶しい」
アルフィーに拒まれれば拒まれるほど、アンダインは彼女に擦り寄る。いっそ嫌がらせなのではないかとアルフィーは思う。アンダインが自分になぜ執着するか未だに解っていないのだ。
「いつかお前のソウルを見せてくれ」
「許すわけ無いでしょ」
こんな世界でも、唯一、心(ソウル)だけは自由なのだ。アルフィーはそれだけは誰にも触れさせたくなかった。それを明け渡してしまったら、自分には何も残らない。そんなトカゲの苦悩など知ってか知らずか、アンダインはアルフィーを抱き上げると暴れる彼女を腕に閉じ込めてベッドルームへ消えていった。
アルフィーは愛など知らないし、必要ないと思っていた。それは生き残るために他を蹴落としてきた自分には不似合いで不必要な物。だから、ソウルの奥で直隠しにしている声について彼女は愛だの欲望だのとそれを判断したことはないし、今後も見えないフリをするだろう。
(いつか……
いつか殺してよ。アンダイン。
強いアンダイン。
負けないで。殺されないで。無慈悲な王にも、悪意の人間にも。だから……)
「ずっと残酷で居るのよ、アンダイン。それでこそ私に相応しいモンスターなんだから」
「うん」
素直に頷くアンダインはしかし、アルフィーの前では残酷性を潜めて微笑んだ。
悪意は力だ。それは人間が教えてくれた。だから
(優しさなんか知らないで。愛なんて知らないでね、アンダイン)
自分の側に居るとどんどん優しくなっていってしまうような彼女にアルフィーは恐怖すら感じてしまう。ソウルの奥でアンダインを失うのは嫌だと叫んでいたが、それなのに本人はそんな自分の本心に気付かず、マッドサイエンティストらしい自分の残忍な願いにほくそ笑んで目を閉じたのだった。