Dreamland
※とあるテーマパークにAlphyneがデートに行く話です。
アルフィーは地下に居た頃からそこに行くことをずっと夢見ていた。いざ一緒に行こうと約束した日から、彼女は暇さえあればネットで情報収集に明け暮れていた程だ。そのテーマパークの入り口に立ったアルフィーは、彼女と初めて出会った頃、私に地上の話をしてくれた時のように夢見心地に瞳を輝かせていた。
館内に入ると愛らしいキャラクターが着ぐるみやら絵やらモニュメントやらで所狭しと目に入り、アルフィー好みの少女趣味な別世界が広がっていた。私もこういうのは、まあ、嫌いじゃないぞ。うん。
アルフィーの頭には館内の地図が入っているらしく、初めて来た場所なのに迷うこと無く彼女は私の手を引いてテーマパークを歩き回った。普段私がエスコートすることが多いから、なんだか新鮮だ。時々こちらを見上げて笑いかけてくるのも珍しい上に、彼女は相変わらず可愛らしい。私はアルフィーについ視線を奪われ、館内の装飾や内装を楽しむのを事ある毎に忘れそうになった。とあるフォトスポットに入るとアルフィーが
「見て!キャラクターをイメージしたお部屋だよ!」
そう言って振り返る。その度にハッと顔を上げて、言われたものを堪能する。
「ね、ねえ、写真撮っても良い?」
私が頷くとアルフィーは私の手を離して飽きること無く写真を撮りはじめる。私は手持ちぶさたになった手で数枚、夢中なアルフィーの写真をこっそり撮った。
アルフィーはまた別のものに目を奪われ、私に駆け寄って無意識に手を取り
「お土産見よう」
ショップを指差して見つめてくる。そんな彼女に首を振ることなんかできない。私が笑って頷くのを確認してアルフィーはまた私の手を引いて歩き出す。彼女がこんなに嬉しそうで、積極的に手を繋いでくれる、ここは何て良い場所なんだ。館内はジャパニーズKAWAIIの世界に満ちていたが、彼女の可愛らしさが一番だろう。悪くないぞ。
ショップに入って奥の方に、異彩を放った見た目のキャラクターのグッズコーナーがあり、アルフィーはそこで足を止めた。全身青緑の青いヒレを着けた魚のようなキャラクター。東洋のKWAII文化は多様だと見え、ひょうきんな容姿のそれも、ポップにグッズ展開されて並べられていた。
アルフィーはそこの棚に、くたりと座っているぬいぐるみの一つを手に取った。
「可愛い」
私は思わず笑ってしまった。他にも可愛いキャラはたくさんあるのに、よりによってなぜコレなんだ。
「これ?」
「うん!」
アルフィーはハッキリ頷いて、それをカゴに入れた。数多のぬいぐるみの中から彼女に選ばれた光栄な魚人のぬいぐるみは、何を考えているかわからない大きな刺繍の目をこちらに向けていた。見つめられているうちに、なるほど、可愛く見えなくも、ないか……?
それからアルフィーはショーやパレードに使うからと、ハート型のペンライトも購入した。アニメの変身アイテムのようなそれは、このテーマパークの世界観にピッタリだ。一緒に買ったキャラクターモチーフのカチューシャは、彼女の話によればこういったテーマパークでは装着するのがお約束らしい。郷に入っては郷に従えというからな、私も彼女とお揃いのを付けた。
館内中央のイベントエリアで行われたパレードで買ったばかりのペンライトの電源を入れると、キャストのダンスや音楽に合わせてライトが勝手に色を変え、観客エリアも演出の一部になる。人間、面白い催しを考えるな。
あっという間に夕刻になり、テーマパークの看板キャラクターが別れの挨拶のアナウンスを流しているのを、アルフィーは此処での時間を振り返りながら涙ぐんで聞いていた。そんなに惜しむなら、いくらでも連れてきてやるものを。
「また来よう」
アルフィーの手を握り直してそう言えば、彼女はここへ来たときと同じように目を輝かせて頷いてくれた。
◇
一日遊び疲れたアルフィーは帰宅早々にベッドに倒れ込んだ。朝早く開園前に並び、閉館まで居たのだから無理もない。私が後から床に入ると、彼女はテーマパークで買ったペンライトとぬいぐるみを抱いて眠っていた。年上の彼女は私を柔らかく受け入れてくれる優しい大人の包容力を見せてくることもあれば、こんなふうにあどけない顔も見せてくる。罪深いな私のパートナーは。
私の体重に軋むベッドの音に目を覚ましたアルフィーが、目を擦りながら枕元の携帯を取り出して、一日の思い出を収めたカメラフォルダを開いて、時折それを私に見せながらニヤニヤ笑っている。それから私に向かって
「今日は付き合ってくれて有難う。ア、アンダインはああいう所、た、楽しく無かったかな……」
と心配そうに言った。
「楽しかったぞ」
「ほんと?」
「また一緒に行きたい」
「やったぁ……!」
アルフィーは携帯を胸に抱いて感嘆を口にした後、それを恥ずかしがったのか、掛け布団を被って顔を隠してしまった。照れてる彼女も可愛いな。
私は自分の携帯も取り出して、アルフィーに画面を見せながらカメラロールを表示する。我ながらアルフィーの写真ばかり撮っていたな。
「わっ、い、いつの間に撮ってたのっ?」
「楽しそうなお前が可愛くて」
アルフィーはまた布団を被ってくぐもった声で「もお」と言っている。
「次行くときはツーショットも撮ろうな!」
次の約束を取り付けたのを喜んでくれたらしく、アルフィーは赤くなって頷いた。私が彼女の腰に腕を回して抱きしめると、みぞおちの辺りにふわっとした感触。
「あっ、おさかなさん」
アルフィーが私たちの間から潰れたぬいぐるみを取り出して「ごめんね」と言いながら枕元に避難させた。早速ベッドに連れてこられるなんて、よほどお気に入りと見える。私はきょとんとした目をしたソレを睨みつけた。アルフィーとベッドに入って良いのは私だけだ。が、ぬいぐるみなら許そうか。可愛いしな。
それからアルフィーはテーマパーク内のショップで買ったハート型のペンライトをカラフルに光らせながら、パレードのダンサーの衣装の魅力や演出の感想、出演キャラクターの解説なんかを改めて私に教えてくれた。
私が話半分に聞きながら彼女の背を撫でていたら、アルフィーの話は段々ペースを落とし、最後には寝息に変わっていった。
「……」
彼女が握っているペンライトをそっと取り上げ、枕元のぬいぐるみに託す。ぬいぐるみが偶然アルフィーを見つめていたので額を突いてやると、指先にふわりとした生地が触れた。くすぐったい反撃に私は指を引っ込めて、アルフィーを抱き直す。そして楽しい一日の出来事を思い返しながら目を閉じた。
END