Sweet Monster

Alphyne
小説
短編

「なに食ってんだ」

 アンダインの問いかけに、PCに向かっていたアルフィーが「ほへ?」っと返事をして振り返った。その頬袋は何やら膨らんでいて、彼女の柔らかそうなそれをあざとく強調しているようにアンダインには見える。
 アルフィーの手元にはキャンディの袋。空の包み紙が、愛らしい水玉の柄をくしゃくしゃにして、デスクのキーボードの上にふわりと落ちていた。

「アンダインも食べる?」

 普段は砂糖菓子など食べないアンダインだが、アルフィーがあんまり美味しそうに舐めているのでうっかり

「うん」

 と頷いた。菓子の袋に手を突っ込んだアルフィーが「なに味が良い?」等と聞いてくるので「なんでも良い」と答えると、コロンとした小さなキャンディが手のひらに置かれる。黄色い包み紙にはレモンのイラストが小さく描かれていた。

「ここに入ってるから好きなだけ食べて良いよ」

 そう言って、アルフィーは袋をマウスパッドの隣に置き、またPCに向き直る。
 アンダインが包み紙を剥がして飴玉を口に放り込むと、口の中にレモンフレーバーの甘さが広がり、申し訳なさ程度のクエン酸の酸味が追って舌を刺激した。

- ガリッ

 アンダインの牙で簡単に砕かれた丸い砂糖の塊は、あっという間に喉の奥に消えていった。その音を聞いて、アルフィーが振り返って笑う。

「もう食べちゃったの? 飴はゆっくり舐めて溶かして楽しまないと」

 アルフィーが今度はキャンディの袋からピンクの包み紙を取り出した。さっきアルフィーが舐めていたものと同じだ。どうやら、お気に入りのフレーバーらしい。それを自分の口に入れてしまう。その様子をぼうっと眺めながら、アンダインがアルフィーへ顔を寄せた。

「その味、好きなのか?」

「いちご」

 照れながら頷いたアルフィーから、甘ったるい苺の香りがする。アンダインはスンと鼻をならしてそれを吸った。苺の他に、アンダインが好きな彼女の暖かい匂いがする。

「……」

 気付いたら距離を詰められているのはいつもの事。アンダインの視線から熱を感じると、アルフィーはいつも黙ってしまう。飴玉が隠れてる頬が徐々に赤くなる。
 そして変なところで鈍感な魚人はやっと気付くのだ。自分は菓子が欲しかったのではない。愛するトカゲの丸い頬が甘くて美味しそうだったから、それに釣られたたのだと。

 アルフィーが座っているオフィスチェアをこちらに向けて、その前に跪く。舌なめずりするアンダインが顔を近づけてきたので、キスをされる期待からアルフィーはきゅっと目を閉じた。アンダインの舌が鋭い牙の間から顔を覗かせてアルフィーの唇を舐めると、キャンディの甘さと唇の柔らかさ両方が魅惑的に調和してアンダインをさらに誘った。たまらずアルフィーの唇に噛みつくと、ビックリした彼女の舌でキャンディが跳ねる。アルフィーの前歯の下をすり抜けたアンダインの舌が、小さくなった飴玉を捉え、それはキスの合間にどちらの物か分からくなった唾液に溶けていった。
 甘いのはアルフィーの唇なのか砂糖なのか、わからなくなってくる。

「も……もう、無いよ……」

 唇を離すと、息を弾ませながらアルフィーが両手で自分の頬を撫でた。彼女の口の中のキャンディはすっかり消えて無くなっていいたが、アンダインはアルフィーの唇を指でなぞると

「まだ有る」

 と言って、またキスをした。