憧れの祝祭

小説
短編

※2023年クリスマスネタ

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 年末年始の地上は気温が下がり雪が降る。人間はそれで一年の終わりを感じるらしい。だが、地下で長い間暮らしていたモンスターたちは太陽の恩恵による季節の移ろいなど知らない。
 辛うじて地上に居た頃の暦を元に独自に年を数えていたため、再度地上に出た後に時間体感の差異もそんなに無く人間と歴史のすり合わせをすることが出来た。
 地上にも年中気候が変わらない土地もあるようだが、イビト山の付近は春夏秋冬があり、冬の寒さが本格化し始めると、人間たちは聖者の誕生日を家族で祝いだす。それが終わると年が明ける。
 アンダインとアルフィーは、人間のアニメや漫画でよく見た祝祭を生で目の当たりにし、その煌びやかな様に驚いた。地上に出たばかりのモンスターたちはまだそんな余裕は無かったものの、各々が見よう見真似でクリスマスを習い、静かに家族と過ごしていた。
 
 
 
  ◇
 
 
 
 バリアが壊れたばかりで地上での環境がまだ整っていない最中であったため、アンダインは大事な1年目のクリスマスをアルフィーと過ごすことが出来ず、祝祭日を留守にしていた。帰宅したのは25日の日付が変わる1時間前。床につく身支度をしたら、四半刻も残されていなかった。

「アルフィーと過ごしたかった」

 うんざりした口調でそう漏らしたものの、そこは立ち直りの早い英雄様。すぐに牙を見せて笑いながら、ベッドでぬくぬくと休んでいたアルフィーの布団に潜り込む。

「あと30分起きてられる?」

 毛布の中で抱き寄せられたアルフィーがくすぐったそうに頷く。クリスマスは大事な相手と過ごすと相場が決まっているらしい。プレゼントも料理もツリーも無い二人の仮屋ではあるが、アンダインにとってそんなことはどうでもよかった。ただ大事なアルフィーと過ごせれば良い。だが、人間マニアのアルフィーはさぞクリスマスを楽しみたかったことだろう。

「それらしいことが出来なくてごめん」

 アンダインの腕の中で身じろぎしながら、アルフィーが首を振った。こうして覚えたばかりの抱擁のぬくもりに浸っている数分。その愛情表現が毎日のそれと同じだとしても、クリスマスの贈り物としても十分なのだ。であれば、自分は彼女に何をプレゼントできるだろう。

「何か欲しいものある?」

 本当は察して用意したかったが、結局忙しさにかまけて何も準備できなかった。今からでも良いなら、愛するアンダインが望むものを用意しよう。アルフィーは回答を待ったが、アンダインはただ

「うん」

 と頷いただけで、アルフィーを抱きしめただけだった。

FIN