ひどいつがい
人間は疲れる。
地上での仕事は地下でのそれより忙しい。地下では考えられないようなトラブルが多発するのが地上だった。なぜ人間は憎み合い、争うのだろう。
とはいえ、アンダインは地上の仕事に充実も感じていた。平和だった地下と違い、地上は自分の力がより求められる場面が多い。それでも時々、人の悪意というものにウンザリしてしまうことがある。
「はぁ……」
アンダインのため息に、パソコンに向き合っていたアルフィーが振り反った。
「疲れたの?」
「いや、全然」
確かに、体は疲れていないし、心が参っているというわけではない。だが、自分のような仕事の者が忙しいというのは考えものだ。平和ボケしなくていいと言えばその通りなのだが。
気がかりなのは保護対象たちの事。アンダインの使命はモンスターの守護であって、それが脅かされやすいのは良い気がしない。自分を心配そうに見上げている最愛のモンスターも、いつ脅威に晒されないとも限らない。
地上に出てから誰かがアンダインに「過保護」と述べたことがあった。アルフィーに対して、だそうだ。本人にそのつもりも自覚も無い。アルフィーを束縛しているつもりも無いし、普段は自由にさせている。そもそも、彼女は自分の所有物ではないので、自由にするのが普通なのだ。だが、地上が地下よりも危険なのは、普段現場に出ているアンダインにとって事実であった。
アルフィーの腰に手を回し、彼女を引き寄せるとまるい頭部に唇を落す。顔を離すと目下には、ときゅっと瞑った目がなんとも可愛らしい。アルフィーのつぶらな瞳がそっと開くと、くすぐったそうに笑っていた。
(私の気も知らずに)
と思ってしまう。
「なあに?」
「なんでも」
こんなに可愛い彼女が自分の目の届かないうちに人間の悪意に触れたらと思うと心配でため息も出てしまう。
アンダインが戯れに自分を抱きしめたりキスしたりするのおは日常茶飯事なので、特に理由が無くてもアルフィーは気にしなかった。
だが、パートナーの愛情表現は少し過剰なのでやっぱり未だ慣れない。地上にて同棲を経て番になり数年経っても、新しい表情を見せ続けてくるアンダインに翻弄される。
(私の気も知らずに)
そう思った。
「科学者様、考え事か?」
「騎士様こそ」
「私?」
アンダインが含み笑いをする。
「お前のことで頭が一杯だよ」
そしてやっぱり、アルフィーはこんな甘い物言いをする番に毎回飽きずに参ってしまって熱を上げるのだった。