ロマンチックなご予定

Alphyne
小説

 モンスターが番になるにはソウルの契りが必要だが、必ずしもパートナーと契りを交わさなければいけないというわけではない。地下世界で婚姻に対する法律はかなり自由だった。どのように人生を共に歩むかはペアのモンスター各々の判断に委ねられており、様々な家庭の事情や形が存在する。大抵の番は自分の心を相手に開き、触れ合い、愛を刻み合うのだが、何らかの事情でそれが出来ない場合でも、態度や言葉で慈しみ合うことで間接的にソウルに愛を刻み合えるのがモンスターだった。むしろ契りをしないペアの方がソウルに触れ合わない分をより丁寧な態度や言葉で補っている事が多い。

 アンダインも、中々開かれないアルフィーのソウルにずかずか踏み込もうとはしなかった。相手が望んで見せてくれないものに、そもそも契りの意味も無い。それでも愛し合っていないわけではないのだし、無理に繊細なソウルに触れてアルフィーとの関係を壊してしまう方がアンダインには恐ろしかった。
 愛する番のソウルに触れられない分、アンダインも例に漏れず言葉や態度を尽くしてアルフィーを大事にしており、それは親しいモンスターたちの間では何かと笑い話になる程だった。

「まるでお姫様だ」

 と親友のメタトンがアルフィーをからかったのも最近だ。何せアンダインのアルフィーに対する愛情は騎士のそれだった。アルフィーはそんな周囲の暖かい視線に戸惑っていた。本人だけはアンダインからのそんな愛情表現をどう受け止めたらよいかわかっていなかったし、回りが大袈裟に言っているように思えた。パートナーになったのも同棲も一年ほど前に始まったばかりで実感もあまり沸いてきていない。

 半分は「夢でも見ているのではないか」と思っていた。

「私の可愛いアルフィー」

 と耳元で呟かれる度に脳の理解許容量がオーバーして

(夢だ)

 と判断してしまう。しかしあまりにもリアルなその夢は(夢ではないので)アルフィーが黙っていると切なそうに眉を寄せて、夢を見ているお姫様を覚まそうと頬を撫でて彼女を飛び上がらせるのだ。
 飛び出さんばかりに鼓動するソウルのエネルギーが全身を駆け巡ってアルフィーの体を熱くさせ、熱を持った瞳がアンダインをちらりと見上げればいとも簡単にアンダインの欲に火が付く。たまらずアルフィーの手を取り抱き寄せて彼女をじっと見つめたが、アンダインの視線に耐えられないアルフィーはすぐに視線を逸らしてしまう。

(このまま、アルフィーと……)

 毎晩思う。けれども小さく震える四肢は、あまりにも大事なもののように思えて……実際にアンダインにとって大事なものだった。それゆえにこんなに求めていてもおいそれと手が出せないのだ。

(欲しい。欲しい。欲しいぞ……!)

 気持ちが急く。しかし自分がこの先アルフィーの肢体を前に冷静でいられるかは疑問だった。

(まだ早い……ッ)

 アルフィーを抱きしめて番のソウルを求める気持ちを落ち着かせようとするが、気休め程度で上手くいった試しがない。いつかアルフィーを求める心が落ち着くのだろうか。アンダインは先が思いやられた。
 アルフィーが許さなければ交わらなくたって構わない。心が通っていればそれでいい。アンダインはアルフィーのソウルが欲しかったが、それは厳密にいえばアルフィーの愛であって、ソウルの交わりによる快楽ではなかった。

「愛してるって言って」

 と、アルフィーにこう強請ってしまうのも、アンダインが最終的に求めるのがアルフィーの愛だけだからだ。彼女が少しでも愛情表現してくれればアンダインにとって小躍りするほど嬉しいものだった。それなのに当の乙女は人一倍の恥ずかしがり屋で極度の照れ屋。
 情を向けてくる英雄が唯一求めるものが自分の愛などと微塵も気付かないトカゲは、上手な表現方法を見つけられず、それゆえうっかり騎士の気持ちが離れてしまうのではないかということばかり気にしていた。アルフィーがもじもじしてる様子を愛らしいと思う反面、つれないともとれる素振りに切ない表情を向けるアンダインの顔を、方やアルフィーは不機嫌と捉えてしまうことも多々あり、微妙なすれ違いの空気が二人の間を流れていた。
 それでもアンダインがわかりやすく求めれば

「愛してるよ……!」

 そう返すことが出来るのだ。怖々見上げれば満足そうなアンダインの表情にアルフィーもほっと安心する。

「無理矢理言わせてる?」

「ううん、本当だよ」

 アンダインがアルフィーに頬擦りしては、唇に視線を落とすので、アルフィーは次第に目を閉じた。お互いの吐息を感じるのみでソフトな触れ合いは何かが始まりそうでいつまでも始まらない。アルフィーの眼鏡を取って閉じた瞼に唇を寄せると長いまつげが唇を擽る。たったそれだけで暴走しそうになる熱情をぐっと堪えて瞼に触れるだけのキスをした。目を開いたアルフィーが赤くなった頬を冷やそうと小さな手で顔を隠す。その動作一つ一つがアンダインを煽っていることなど知らないのだろう。

(アルフィーはどう思ってるかな)

 ふとそんな疑問が浮かぶ。あまりにも照れ屋な彼女に対して「セックスを求めていない」ものと決め付けていたが、直接聞けば少しは自分との交わりを求めてくれているかもしれない。

「アルフィー」

「なに?」

セックスソウルセックスに興味ある?」

「え?!」

「だから、セックスに興味あr」

「いいい言い直さなくても聞こえたよッ?!」

「あ、そう」

 アルフィーは更に俯いて顔を隠して黙ってしまった。悲しくもないのに恥ずかしさで涙が出そうだ。確かに恥ずかしいことを聴いた自覚はあるが番なのだから当然話題になるだろうと思って話を振ったアンダインも、アルフィーがあまりに戸惑うので当惑してしまう。困らせるつもりは無いし、今すぐ取って食おうなどと思っていない事をどう伝えればよいだろうか。

「あー……急にごめん! お前にその気がなかったら別にシなくていいんだ」

「えっ」

「セックスしない番も居るしな」

「……」

 アンダインが、牙を見せてニッと笑った。アルフィーには彼女の笑みの本心が分からず思案しながら床へ左右に視線を揺らす。
 ここで「したい」と言えばアンダインが喜んでくれるのだろうか。はたまた、迷惑がられるのか。聞くことも出来ず喉の奥に音を詰まらせる。

「困らせたか」

 慌てて首を振る。それでもアルフィーの戸惑いだけはアンダインにもわかる。青い指が黄色い顎を撫でた。

「いいよ。アルフィー」

 
 
 
  ◇
 
 
 

「……ってかっこつけたけどッ」

 そううっかり口に出して、顔を上げると隣の01と02が訝しそうにアンダインに顔を向けていた。兜の下で眉を寄せているドラゴンと兎の顔が魚人には想像付いた。

「姉さん」

 と01は小言の意味を込めて言ったものの、アンダインの集中力が、彼女が思考の海をさ迷っている程度で削がれないことを彼らは知っていた。
 警備する扉の先では退屈な会議が始まっている。我らが気の良い王はこんな雑談をしていても微笑んで許してくれるだろうが、建前はそうはいかない。3人は背筋を正した。

「姉さんが誰にかっこつけたって?」

「決まってる」

 02が言ったので01は頷いた。アンダインが咳払いをする。

「はぁ。かっこつけなきゃいけない事が?」

「おい、私をからかおうってのか?」

「まさか」

「お前たちは仲良くしているんだろうな」

 上司の手前、自分の事より部下のプライベートの心配が先だった。上辺だけは。
 アンダインはこの二人の仲の良さを知っている。助言や心配など無用なことも。

「そんなこと言われても俺たちラブラブなんで」

 思った通りの返答にアンダインはぐうの音も出ず01を睨んだ。その仲良しの秘訣を教えてもらいたい程。恥を忍んで聞いてみようかとすらアンダインは思った。

「姉さんだって。ねえ? 毎晩熱いッショ」

「毎晩……だと?」

「01」

 下世話な話を始めそうなパートナーを02が諫める。今のアンダインには痛い話だ。苦虫を噛み潰したような上司の声に二人の口許はひくつく。
 02はアンダインの呟きと話の流れでいち早く察しをつけ、01へ目配せした。

「姉さん、もしかしてレス? マンネリ?」

 02のアイコンタクトも虚しく、アンダインの穏やかでない心境に気付かない01は談笑を続けていた。

 アンダインが地上に出てアルフィーと生活を始めて1年以上が経っている。レスやマンネリどころの話ではない。自分たちは始まってすらいないのだ。

「……お前たち、そんなにすぐ契ったのか」

 言われ、01が心底照れ臭そうに兜の上から頭をかいた。

「そんなことないっスよぉ。RGは早めに地上の住居をもらったじゃないっスか。そこから二人で相談して、1か月ぐらいでさ、な?」

 話を振られた02は01の言葉には回答せず

「隊長、そういうことは番それぞれです」

 となけなしのフォローを入れた。アンダインは深いため息をつくと、それ以降黙って警備を続けた。01は02から睨まれていたが、02からの視線に兎はただ照れくさそうに笑うだけだった。

 
 
 
  ◇
 
 
 

 深夜も0時を回った頃、自宅に戻るとリビングの明かりはついてたものの、アルフィーの姿はそこに無く、彼女の姿を探して寝室を覗けば先にベッドで丸くなっているアルフィーの姿をアンダインは見つけた。

「……」

 眠るパートナーを起こさないようにそっとベッドに腰掛ける。一人でベッドに眠るときは尻尾を丸めてうずくまるアルフィーの姿はひそかにアンダインが彼女を可愛らしいと思う仕草の一つだった。一緒に眠るときに自分の胸に頬を預ける姿は更に可愛い。(結局どれも可愛いのだろうが……。)
 寒がりのアルフィーの肩に毛布を掛けてやる。閉じた瞼にあしらわれた睫毛が少しだけ震えたが、目を覚ますまで至らなかった。それに気をよくして長い睫毛に指の腹でそっと触れると、本人とおなじように柔らかい毛がふわりと魚人の分厚い指の皮膚を擽る。瞼の下の青い瞳を思うと内から温情が沸いてくるようだった。

(愛しているぞ)

 口にせず想った。情ゆえに彼女を起こして瞳に自分を映してほしいと思うし、情ゆえにこのまま穏やかに寝かせておきたいと思う。彼女の体を暴いて全てを知りたいと思うし手に入れたいと思うのに、傷つけるぐらいならアルフィーの内に大事にしまっておいてほしいとも思ってしまう。相反する気持ちがアンダインの中で葛藤し、愛の難しさについて考えさせられた。

「……」

 アルフィーの寝息が聞こえるほど顔を近づけて、その音を聴くだけで神聖な気持ちになるのに、少しでも触れたい邪な気持ちも同時に擡げる。毎日触れ合っているのにそれ以上求めている自分とそれ以上はダメだと思う自分がくだらない言い合いをしている。
 アンダインは喉を鳴らしてそっと息をつくと、ゆっくりとアルフィーの額に唇を押し当てた。

「んん……」

 アルフィーが微睡の寝言を小さく漏らしたので慌てて顔を離す。そっと開かれる瞳に起こしてしまった後ろめたさを感じたが、体を起こしながら「お帰り」と呟く番に愛しさが勝り、ニヤけた表情を隠せなかった。

(アルフィーは私のこんなだらしない顔をどう思ってるだろう)

 しきりにアンダインのことを「カッコいい」と褒めそやすアルフィーには、もしかしたら不評かもしれない。好きな女の子に鼻の下を伸ばしているなんて、カッコよくはないだろう。

「起こしてごめん」

「ううん。お疲れ様」

 ダミ声の労いの言葉が荒みかけた感情を静めていく。換わりに沸き上がるのは甘美な懊悩だ。眠たげな顔で見上げてくるアルフィーを毛布ごと抱き締めると、状況を徐々に把握しはじめたアルフィーのソウルの動機が上がっていく。
 アンダインがアルフィーを抱きしめるタイミングはいつも突然だった。長く一緒に暮らしている気がするが、アルフィーにはまだ慣れない。

「……ぁ」

 と、呟いた。そういえば、アンダインと番になって、どれぐらいになるだろう。地上に出てから慌ただしかったから、番一年記念など遠に過ぎたはずだ。もしかして2年?とまで考えて、それは流石に未だだと思い至った。

「なに?」

「えっと……。大したことじゃないの」

 何となく「いつから一緒だっけ」なんて聞くのが照れ臭い。けれど、アンダインに「大したことじゃない」と言えば「なら言え」と返ってくるのがオチなのはわかっていた。

「一緒に暮らしてどれぐらいかなぁって」

「2年ぐらい」

 アンダインが間髪いれずに答えた。計算が早いわけでも記憶力が良かったわけでもなく、昼間の部下との会話から密かに同じことを考えていたアンダインが、先に振り返って思い返していただけだった。アルフィーは記憶を巡らせた。確かに地上に出る前からベッドは同じくしていたし、番になってから1年半程度かもしれないが同棲は2年ほど経っていたようだ。

「そんなに経ったっけ」

「うん」

 アルフィーを責めるつもりなんか毛頭無いのに、なぜか拗ねたような声色が出てしまう。機会を待っている、というわけではない……と、自分の欲深さに言い訳をして蓋する。一生交わらなくても彼女を愛すると決めたのに、甘えた声を出している自分に脳内で渇を入れる。

「慣れたか?」

「えっ、な、何に……?」

「この生活」

「あ、う、うんっ。そっちか……」

「『そっち』って? 慣れないことがあるのか」

「ぜ、全然……」

「私との生活で不便なことがあるなら、ちゃんと言え」

「そんなの、無いよ……」

「嘘が下手になったな」

 秘密を打ち明けて以来アンダインに嘘はつかないと決めてから、アルフィーは上手に嘘をつかなくなった。もともと上手い方ではなかったし、より一緒の時間が増えた分アンダインの方でも察しやすくなったのも要因だが、それ以上に罪悪感や決意が演技を大きく妨げる。
 以前は自分という存在全てを嘘で塗り固めて隠してしまおうとしていたアルフィーにしてみれば「そっちの方がまだ簡単だった」のだ。徐々にアンダインへ向けて露見されるありのままの自分を断片的に嘘で隠す方が実は難しい。
 イマジナリーな理想の自分ではなく、リアルな自分を常に憧れの相手に晒さなければならないのだから。

(一緒に暮らすって難しい。皆どうして平気なんだろう。好きなモンスターと一緒に住むなんて、緊張するのに……)

「まだちょっと、緊張することがあるだけ」

 アンダインが気まずそうに頷いた。

「威圧的な容姿なのは自分でもわかってる。あー、その、態度も……?」

 アルフィーはすぐさま首を振ってそれを否定する。

「あなたには解らないかもしれないけど……。好きな相手と一緒に暮らすって、緊張するの」

 英雄にはその言葉の半分は理解できなかった。好きな相手と暮らすのは勿論期待と不安が入り混じるが、アンダインからしたら、大事な番といつも一緒にいられる同棲生活は、する前も今も、楽しい気持ちの方が先行する。

「わかんないよね」

「いや。解らなくもないが」

「アンダインも緊張したりするの?」

 アルフィーは「まさかね」と言ったように笑った。
 勿論、戦士ゆえに緊迫した場面に遭遇することが一般のモンスターより多いアンダインである。緊張しないというのは嘘だ。だがソウルに毛でも生えているような豪胆な英雄が「緊張する」と言えば大抵のモンスターは驚くだろう。アルフィーも、興味深くアンダインの言葉を待っていた。

「アルフィーとこうしてくっついていると、たまに緊張する」

「へ? な、なんで?」

「そ、それは……」

 自分の馬鹿力で可愛いトカゲを潰してしまわないかとか、理性を保っていられるかとか、アルフィーを好きな気持ちが暴走して嫌われたら嫌だなとか、あらゆる理由がアンダインの喉まで出掛かった。
 腕を緩めてアルフィーの顔を覗き込むと顔を火照らせたアルフィーと目が合う。

(キスしたいな)

 アンダインは何度も思ったが、今それをしてしまうのはいかがなものだろうか。興奮収まりきらない気持ちでアルフィーの唇に吸い付いたら最後暫く貪ってしまいそうだし、そのまま手を出してしまいそうだ。

(いやいやいや……ッ!)

 餌を前にした犬のように唾液を何度も飲み込んだ。アルフィーが許さなければそんなこと出来るはずはない。万が一欲に負けて手を出したところで、拒否などされたら自分の勝手な気持ちは簡単に萎んでしまうだろう。

 こちらの瞳をぼおっと見つめながら悶々と思案しているアンダインの意図を酌めないアルフィーは沈黙と視線に耐えられず口を開けた。

「私に何か気を使ってるなら、そ、そんなの良いんだよ」

「えっ」 

「アンダインは自由に振舞っていれば、良いの」

 アルフィーからしてみれば自分がアンダインに緊張するのは当然で、逆は可笑しな話だ。自分が傍に居ようが居まいがアンダインは傍若無人に振舞っているはずだ。それなのに、何故かは解らないがアンダインも自分の前で緊張することがあるらしい。優しい彼女の事だ。本人なりにパートナーと選んだ相手に対して気を使っているのかもしれない。
 仕事上気を張る事の多いであろうアンダインに、プライベートでぐらい少しでも煩わしい思いはしてほしくないとアルフィーは思っていた。

「好きにしていいんだよ」

 アルフィー本人に含みを込めたつもりはないが、それを聴いたアンダインには強く蠱惑的な響きに聞こえた。

 もしも望むままにアルフィーを扱っていいのなら、どうしてくれよう。
 飛び切りロマンチックな夜を用意しよう。部屋を飾って、花を用意して、ああ、甘いフレーズを入れた手紙も添えようか。ムーディな一曲をピアノで演奏したら、アルフィーの為に度数の低いアルコールを傾けよう。彼女の好きな果実酒が良い。アルフィーがうっとりして自分に惚れ直すような……いや、感動して泣いてしまうかもしれない。そしたら指で小さい涙を拭って自然にキスをするのだ。恥ずかしがりのアルフィーもきっと自然に寄り添ってくれるし、自分が多少不躾に手を腰に回したとしても逃げないでくれるだろう。大事すぎることなんか無いというように大事に扱って、安心しきったアルフィーが自分の腕に体を預けるところを想像する。空想だけでくらっときてしまう。

(それから……それから……)

 見つめ合って、アルフィーの青い瞳の美しさを並べてやるのだ。瞳どころかアルフィーは目を縁どる睫毛さえ愛らしいのだから。唇が重なるほど顔を近づけて……

(アルフィーに好きなだけキス出来たら……いっそ、その先もッ!)

 なんと最高だろう。心行くまで抱きしめて、腕に閉じ込める。先ほどの「好きにしていいんだよ」の言葉をもう一度脳内で再生させる。

「本当か?」

「う……うん」

 アンダインの腕からもぞりと顔を上げて頷くと、アンダインの熱っぽい瞳が眼前に迫っていた。

「お前が欲しいって言ったら……困る?」

「え! ほ、欲しいって、な、何を……?」

「全部」

 心も体も……という意味を込めたことは、流石にアルフィーにも伝わった。アルフィーの赤かった顔がさらに赤みを帯びる。

「い……ッいいよッ!! そ、そうだよ、私はアアアアンダインのものだもん……ッ!すすす好きにしてよ!!」

 言いながらアルフィーは目を回しそうだった。急にソウルがバクバクと跳ね上がる。

「あああああでででででもでも私そんな良いもん持ってないよ?!」

「私はには良いもんだッ!!!」

 静かなはずの寝室で気持ちが高ぶった二人は叫び合う。ハッと我に返るとお互い荒くなった鼻息をゆっくり鎮めた。

「……アルフィーはセックス嫌がると思ってた」

「あぅっ、そ、そんなことないけど、あ、うう……なんと言えば……ッ」

 モンスター同士のセックスは体以上に心を晒す行為。それを晒すことを嫌がるモンスターは一定数居たし、アルフィーも本心をさらけ出してアンダインの心が離れるのが不安だった。

「嫌われたら怖くて」

 という呟きに対してアンダインはわざわざ驚きはしなかった。彼女らしい困った悩みだと思った。それもこれも自分が安心させてあげられないことも要因だ。

「アルフィー。大好きだ。そんなこと心配いらないぞ」

 そういって、アルフィーの体を再度抱き寄せる。それからいつもより長くて甘ったるいキスを気の遠くなる程したが、アンダインは真っ赤になったアルフィーにそれ以上求めることは出来なかった。

 ようやく口づけから解放され息を整えているアルフィーの隣でアンダインが初夜の予定を楽しそうに立て始めていたので、アルフィーのソウルは以降も暫く静かにならなかった。