Lost LoveLetter
老舗の文房具店が丸々入ったビルのワンフロアを二人はゆっくり歩いていた。可愛らしい柄やデザインの文具類を見て、感想を共有するだけの時間はアルフィーにとって楽しいものだったが、隣を歩くアンダインには退屈でないだろうかとふと気になるときがある。活発な魚人の番がスポーツを好み、野外のデートが好きなことを知っていた。
「こういうの、アンダインには興味無い、かな?」
「あるぞ」
「そ、そう?」
アンダインは頷いた。何を隠そう、地下のニューホームへ一緒に出掛けた際に同じく文具店を尋ね、交換ノートを強請ったのは彼女である。
(アンダイン、もしかして可愛い物好きなのかな)
以前「興味無い!」と宣っていたのを聞いたアルフィーは、アンダインがそう言った類の物をあまり好まないと思っていた。自分の事を「可愛い」と言うのも、「興味がない」という意味なのだと、地下に居るころはそう受け取っていたが、自分に向けられる愛情をゆっくり感じ始めているアルフィーは、最近では「可愛いの、好きなんじゃないの?」とも思うのだ。ただ、本人に聞かなければわからない。
レターセットが並ぶ棚に差し掛かり、アンダインが足を止めた。アルフィーがアンダインの視線の先にある商品を覗き込む。
「お洒落な便箋だね」
「うん……」
白い無地にハートの型押しがされたシンプルな便箋を青い指が棚から拾い上げる。これに似たレターセットを以前持っていたが、その「事実」は今はもう無い。
アルフィーへ気持ちをどう伝えようか、何度も自室のデスクに向かい合って便箋と睨み合っていた、もう消えてしまった過去を思い出した。積まれた筈の手紙の山、一通も投函されることなく、フリスクに託した渾身のそれも、結局アルフィーに渡ったのかもわからず、勿論返事など聞けなかった。そんな想いの丈を回想すれば、どこか寂しい気分になる。
アルフィーに伝えたい言葉は沢山あった。その時にいくつも考えた珠玉のフレーズも、今となっては遠い記憶に消えかけ、思い出すのも一苦労だ。
今は、この胸に溢れる想いをしっかり彼女に伝えられているだろうか。伝えそびれているメッセージはないだろうか。
アルフィーと魂の交わりをするようになってから、感覚的には伝わっているだろうが、自分の単純な魂が発する気持ちが繊細かつ詳細なパートナーへの愛を相手に伝えているかは定かでは無い。
「買う」
というアンダインに、アルフィーは意外そうに彼女を見上げた。アンダインは急に照れくさくなって、項を掻く。
「お前に、ラブレターでも書こうかな」
「えっ」
「い、嫌かッ!?」
アルフィーは大きく首を振った。アンダインとラブレターという異色の組み合わせにその内容は予想できない。そんなものをもしも本当に貰えたなら、アルフィーにとって大変な事件だ。
「そ、そ、っそしたら……!」
アンダインが取った便箋の隣にある青いリボンのイラストが入ったロマンチックな便箋を、アルフィーの黄色い指が適当にさっと取った。
「私も、書こうかな……っ」
アンダインが目を見開いて口を開ける。期待を込めた声音で「何を」と呟くと、アルフィーが便箋を胸に引き寄せて
「…………ラブレター」
と囁く。
「誰にッ!?」
「ももも勿論アンダインにだよ!?」
番の英雄様は少し嫉妬深いようだ、と最近アルフィーは薄っすら気付き始めていた。自分が別の者に対して……そう、それがみゅうみゅうコンテンツを配信する公式へファンレターなど送ろうものなら、アンダインは良い顔をしないだろう。
だが、自分のラブレターなど誰が欲しがるのか、という思いはやはり臆病なトカゲの心の根底にしつこく巣くっている。
「……い、い、要らない……よね」
「要るに決まってんだろッ!!」
くわっと牙を見せたアンダインの気迫に思わず頷いたアルフィーは、レジの方へ歩いていく魚人を慌てて追いかけた。アンダインはレジへ着くと後ろのアルフィーの手から便箋を取り上げて、二つ分の便箋の会計手続きをする。
二人で店を出ると、アンダインは青いリボン柄の便箋をアルフィーに手渡した。自分よりも柔らかい文字を書くアルフィーが、そこにどんな愛の言葉を綴ってくれるのか今から楽しみで仕方がない。
「期限は1ヶ月」
緩む口元からアンダインがそう言った。
◇
手紙を書くのは何年ぶりだろう。アルフィーにラブレターをしたためていたのが遠い昔の事のように思えるし、実際随分時間が経っていた。
当時、彼女の運命を変えるので精一杯だったアンダインはじっくり手紙を書くことも、アルフィーに思いを伝えようかどうかで悩んでいる余裕も無かった。
青い指がペンを握るが、動かない。真っ白な便箋の書き出しに迷っていた。あの時書いた文章の内容は、彼女の愛らしさをつらつら並べて最後にデートに誘うものだった。大事な告白は顔を見て対面で言いたかった。
「今なら何て書こう」
地上に出て環境も二人の関係も大きく変わってしまった。伝えたいことは我慢せずに直ぐ伝えているし、何ならアルフィーの部屋へ行けば彼女が出迎えて、今すぐ愛の言葉を思う存分聞いてくれるだろう。わざわざ手紙にしたためる内容なんてあるだろうか。
しかしアンダインはそっとペン先を便箋へ落とした。
― 私の可愛いアルフィーへ
と綴り出す。あの頃伝えたかった事を改めて綴り、当時はそれを投函できなかったことも含めて追加で書き記した。
アルフィーがどれだけ自分にとってかけがえのない存在か、如何に愛らしいか、毎日想っているか、その機知に富んだ様が番として誇らしいこと、そしてあの頃は無かった多くの思い出を振り返り、その時のアルフィーの魅力についてしつこいぐらいに書き加えていった。
寝顔を眺めて恋焦がれた夜は数知れず、優しい胸に顔を埋めて撫でられたときの幸福感たるや筆舌に尽くし難い。そのソウルの鼓動を聞いているだけで安心と安寧を感じること、傍に居てくれるだけで尊いこと、もう知られてしまっているであろう、恥ずかしい独占欲など、アンダインは思うまま筆を滑らせた。
書くのに没頭していると冗長な手紙になりそうだったので、一旦筆を置いて一息つく。まるで日記のように自分が想っている彼女への気持ちが書かれた便箋が、数枚仕上がってしまった。それを読み返すと、アルフィーへの愛しさがアンダインの胸を何度も熱くした。
◇
「こんなの渡せないよ……!」
と呟いて、お気に入りのみゅうみゅうのプリントが入ったボールペンを置いたのはアルフィーだった。
正直に言えば、書いているうちに楽しくなってしまって、相手に渡すことを忘れて好き勝手に思いを綴ってしまっていた。普段同人誌を書いているデスクで同じテンションでペンを取ってしまったのがいけなかった。
― 愛しのアンダインへ
という浮かれた書き出しには流石に慌てて取り消し線を入れる。
「だって、ラブレターなんか書いたことないもん」
ため息をついて、数枚に及んだラブレターを手に取って読み直す。ブログに推しの魅力を延々と書き殴っているオタクの叫びのようなそれ。彼女が尊いばかりに語彙力が失われそうになるのをぐっと堪えながらアンダインについて綴った。彼女の鋭い美しさが如何に壮麗か、その天真爛漫さと凛々しさが自分だけでなく総てのモンスターにとって希望であるか、それなのに愛嬌がありユーモラスで魅力溢れているか。エトセトラ……。エトセトラ……。
「……はぁ~~……やっぱり好き~~ッ」
自分が書いた文章で、アンダインに対する恋焦がれる気持ちが揺さぶられる。これだからオタクは単純でいけない。うっかり口にしてしまった想いに恥ずかしくなり周りを見渡すが自室には勿論自分しか居らず、半魚人のぬいぐるみがデスクにちょこんと座ってこちらを見ているだけだった。ぬいぐるみの瞳の刺繡と見つめ合っているうちに、はっと我に返る。
アンダインの魅力を綴っているだけで自分の気持が入っていなかった。これはラブレター。自分の気持を入れなければその体を成さない。
アルフィーは自分の感情を言語化するのが苦手だ。得意だったらこんなものを書かずに本人に伝えている。そう、アンダインのように。
「……アンダイン、書くことあるのかなぁ」
という疑問が浮かんだ。アンダインは思ったことは直ぐ口にする性格だ。アンダインの言葉は前置きも無く放たれることが多く、特にアルフィーに向けるそれはその傾向が強かった。
もしかして、普段言えないでいる気持ちを書いて渡されてしまうかもしれない。と予想して、これを機に彼女の新しい気持ちを知れるかもしれないという期待と不安を抱く。
当然それを受け取るからには自分もしっかり書かなければならない。アルフィーはまたペンを持ち直した。
◇
「えっ、こ、この場で!? 今!?」
「此処じゃなかったら何処で読むんだ」
「そそそそりゃあ自室で一人こっそり読むんだよラブレターだもんっ!」
「隠れて読むものなのか? 返事を待つような物じゃないのに」
何でもない休日の昼下がり。約束の1ヶ月を待たず、アンダインがアルフィーに手紙を渡すと、アルフィーがそれならばと自身も自室のデスクの引き出しから手紙を取り出した。
アンダインは一秒でも早くアルフィーのラブレターを拝みたい気持から、便箋の封をしていた青いリボンのシールを無残に破いた。それを見てアルフィーが両手で顔を覆ってリビングから逃げようとするので、慌てて彼女の腕を捕まえる。
「そんな恥ずかしい事書いたのか?」
「だだ、だって、ラブレターだもん……ッ」
「ほう」
楽しそうに目を細めてアンダインは相槌を打った。
アルフィーなりに勇気を振り絞って書いたのは、この手紙が自分の居ないところで開封されると思っていたからだ。目の前で読まれてしまっては口で伝えているのと同じではないか。
「アルフィーも私の読んで良いから」
「だからそれは部屋でゆっくり……」
アンダインはアルフィーの言葉の終わらぬうちに彼女を抱き上げると「アルフィーの自室なら良いんだな」と揚げ足を取りながら廊下を出た。
「あわわわ私の部屋はダメっ い、今散らかってるから!」
アンダインは慌てるアルフィーが可愛いので笑い声をあげた。そしてアルフィーの部屋を通りすぎ、寝室へ入るとベッドに彼女を降ろす。
「お互い部屋にこもって手紙を書いていたんだ。暫く傍に居たい」
そう言って見つめられると、それ以上言い返せなくなったアルフィーは黙るしかなくなる。アンダインがアルフィーの隣に座り、握りしめていた青い封筒をあけて中の手紙を取り出した。
「一緒に読もう」
「や! ま、待って……っ」
アンダインの指に黄色い手が重なる。照れるアルフィーを可愛いと思ったが、同時にアンダインは困って瞳を潤ませる彼女が少し可哀想になった。
「なら、先に私のを読もう」
「えっ!……そ、それはそれで、恥ずかしいなぁ」
アルフィーの手に握られている白い封筒を取り上げて、アンダインは自分で意気揚々と貼ったはずの赤いハートのシールを容赦無く破る。
「あ~~~~!」
「な、何だッ」
「……ハート、破れちゃった」
「そんなこと」
「……」
アルフィーが不服そうにチラリとアンダインを見上げる。オタク気質のアルフィーはそれを大事に剥がして、手紙ごと保存する予定だった。そんな彼女の不満がやんわり伝わり
「ご、ごめん」
とアンダインが謝る。しかし破ってしまったものは仕方ない。アンダインは手紙を取り出して、アルフィーが見えるように広げた。
「『私の可愛いアルフィーへ』」
とアンダインが自分の手紙を読み上げる。
「『実はこの手紙を書くのは2回目だ』」
「ええ!?」
驚くアルフィーにニヤリと笑みを向けながらまた手紙に視線を戻す。
「『アルフィーに手紙を書こうと決めてから何度も書き直し、何度も投函することを躊躇った。でもある時、手紙にしている暇が無くなってしまって、書き溜めたそれは消えてしまった』」
アンダインは続けた。
「『消えた手紙に書いた内容は、実は大したことは無い。お前へのデートのお誘いだった。実際に会って、告白したかったから』」
そう、手紙のやり取りもロマンチックで素敵だが、結局は大事なことは口にして、相手を見て、音にして伝えたくなってしまう。だからこうして、わざわざ手紙を読み上げているのだろう。
「『アルフィーをとても愛しているぞ』」
「ヒャッ」
手紙でも、アンダインのストレートな表現は健在のようだ。赤くなって顔を背けるアルフィーの腰をアンダインが抱き寄せて、トサカに口付けた。
「『お前が悩んでいた時に、助けになりたかった。だから、気持ちを手紙で伝えることを後回しにした。後悔はしていない』」
アルフィーはそっとアンダインを見上げた。彼女の瞳は手紙に視線を落としているのに、遠くを見ているようにも感じられた。
「『だから改めて書くけれど……私にとってアルフィーは出会ったあの時から特別な女の子だった。』……本当に最初から」
アンダインは時々手紙に書いていないことも付け加えて口にした。
「一目惚れと言われたらそれまでだが」
「ええ! ひ、一目惚れ……?」
驚くアルフィーに、アンダインは含みのある笑みを返す。
正確に言えばアンダインのアルフィーへの気持はグラデーションのように徐々に気持ちが募っていったというのが正しい。本当に最初にアルフィーと出会った時に、幼少期の忘れてしまった気持ちがぼんやりと発露して相手を可愛いと思っただけだった。アンダインにとってそれだけでも不思議な感覚だったが、アルフィーと関係を続けるうちにその感情が確固たるものに変わっていった。ただそれだけで、本人はそれを特別なことと感じていない。
「気付いてくれていたか」
アルフィーは肯定も否定も出来ず俯いた。アンダインは最初から優しいモンスターだった。自分に気があったと言われたら分かるような気がするが、当時は当惑したものだ。
「『お前が何に悩んでいるかはともかく、苦しんでいるのは知っていたから助けたかった。独り善がりの正義の為に。アルフィーの望みを叶えてやれなかったかもしれないが、ただ笑ってほしくて』」
「わ、私、アンダインに救われたんだよ」
「本当か」
アルフィは頷いた。
「『お前が私と一緒になってくれて、隣で時々笑顔を見せてくれる今はとても幸せだ』」
以降、手紙は、同棲後の思い出の振り返りやアルフィーの魅力で埋め尽くされていた。
「『……この手紙で私のお前への愛を少しでも解ってもらえたら嬉しい。お前のアンダインより』」
と締めて、アンダインは手紙を封筒に戻し、アルフィーにそれを渡す。そして、自身のジーンズのポケットにしまっていたアルフィーからの便箋を取り出した。
「次はこっち」
「ま、ま、待って!」
「私のだけなんてズルいぞ」
「うっ……!」
今度こそ青い封筒から手紙を取り出す。畳まれているそれを開くと、アルフィーの丸い文字が並んでいるのが見えた。見ているだけでニヤニヤしてしまう。
「アルフィーは文字まで可愛いな!」
「そ、そ、そうっ?」
「ねえ、読んで」
「はっ、恥ずかしいよ……!」
「ヌゥ……」
あまりしつこくねだっても、アルフィーの機嫌を損ねかねない。アンダインは再びアルフィーの腰に手を回して、先程と同じ姿勢になって手紙を眺めた。
― ラブレターなんて、初めて書くから、上手く書けるかわからないけど
「は、初めてか」
「うん……」
― いつも、上手に言えないから、どうせなら、頑張って正直に書くよ。アンダインの事、大好きだよ。でもどうして言えないのかな。本当は毎日伝えたいし、毎日あなたが好きだし、一緒に居るだけでドキドキするし、だから上手く言葉に出来ないんだよ。私、話すの苦手だし。
「ふふ」
アルフィーの声が聞こえてきそうな文章に、アンダインが笑った。
「どこ読んでるの?」
「ここ」
アンダインが指でそこをなぞる。そのまま、続きの文章をなぞっていく。
― あなたの素晴らしさを言葉にするのってとても難しいの。私の語彙力ではチープになりそうな気がする。アンダインは私がラブレターに綴るようなスケールの狭い存在じゃないんだよ。そうなの、私だけじゃなくて、貴方は皆の太陽で、希望で、ヒーローで。だからいつも、色んな事が心配になっちゃう。
「心配か」
アンダインの呟きにアルフィーが肩を竦めた。
アルフィーが心配症なのは知っている。この手紙にヒントが隠されていればいいと思いながら読み進めた。
ー こんなに素晴らしいモンスターの番が私でいいのかな、とか。アンダインが私の為に困ったり怒ったりしないかな、とか。仕事で怪我しないかな、とか。でも、アンダインは私がそんな心配をしているといつも力強く否定してくれるよね。そして根気よく私を繋ぎ止めようとしてくれる。あなたはいつも自分の強引さを謝るけど、私はアンダインのそんな揺るぎ無さに救われてるよ。
「本当……?」
「うん……!」
アンダインの指が止まった。
「私も心配していた。お前を傷つけていないかって。時々、アルフィーが逃げたいのは私がお前を傷つけているからかもしれないと」
「ち、違うよ…!」
「私がお前を選ばなければ、お前はもっと優しいモンスターと番って、幸せになれたんじゃないかって」
アルフィーが口を開いて否定しようとしたが、アンダインが「でも」と続けたので口を閉じた。
「でも私、そんなの耐えられない。だからごめん」
「……」
「でも、私のこんな強引さは、嫌いじゃないんだろ?」
言いながらアルフィーの腰にまわった腕に力を入れる。見つめられたアルフィーは顔を真っ赤にして頷いた。
「じゃあもう、遠慮しなくて良いんだな」
「え、遠慮なんて、して、たの?」
「……してないな、今までも」
自分で言いながら可笑しくなる。そして、アルフィーの手紙の最後のページを読んだ。アルフィーは謙遜を添えながらもアンダインが如何に自分にとって素晴らしい存在か聞き記して、最後にこう添えられていた。
― 本当は毎日言いたいんだよ「愛してるよ、アンダイン」。中々言えないから手紙にするね。いつも有難う。あなたのアルフィーより
「ん~……」
「な、なに?」
「手紙も良いけど、やっぱりアルフィーの声で聞きたいぞ!」
アンダインが手紙を畳んでポケットに突っ込む。
魚人の期待のこもった瞳で見つめられてアルフィーは両手の指を絡ませながら
「愛してるよ」
そう言った。ちらりと見上げれば、満足そうに牙を見せて笑っているアンダインと目が合う。
(喜んでくれたかな)
目の前で手紙を読まれて恥ずかしい思いをしたが、愛する番が嬉しそうなので恥を忍んだ甲斐があった。アルフィーは苦笑いしながらアンダインの胸に頭を預けた。
「…………ズルい!!」
「な、何が?!」
文句を言いながら眉を寄せて嬉しそうに唇を結んでいるアンダインの顔がチラリと見えたが、アルフィーはあっという間に彼女の腕に閉じ込められてその至福の表情をゆっくり拝むことはなかった。
自分の手紙一つ、愛情表現一つでこんなに喜んでくれるアンダインが可愛くて、嬉しくて、でもまだ「変なモンスターだな」と、アルフィーは未だに思う。自分の何がそんなにいいのだろうか。それとも、ただの同情か。
(アンダインが、私を同情で可愛がってくれてたとしても……)
もしそうだとして、未来が不安に満ちていても、自分が出来ることはアンダインを想う事だけだった。
「……何でもいいよ。あなたが、喜ぶなら」
アルフィーの内情など知るよしもないアンダインはそれでも、そんな健気な言葉に喜んで、腕に閉じ込めたトカゲをそっとベッドに押し倒したのだった。
END