あるふぃちゃんのぼく

Alphyne
小説

※ぬいぐるみ視点です。
 
 
 
 
 

 ぼくは魚人の有名キャラクター……じゃなくて。そのキャラクターを模したぬいぐるみ。青いふわふわ生地に、魚のお目々の刺繍はギョロっとしてて、お友達の売れ行きは、まあまあ。
 でも、ぼくの持ち主”あるふぃ”ちゃんは、バラエティショップでぼくを見つけたとき、分厚いメガネ越しに目を輝かせて

「可愛い」

 って言ったんだ。そして、迷わずぼくを手にとった。あるふぃちゃんの隣に、ぼくと同じ青色のお肌のお姉さんが、ぼくよりもっとギョロっとした目でぼくを睨んだ。

「これ?」

「うん!」

 青いお姉さんは、あるふぃちゃんを見つめて、すごく優しそうにニッコリ笑った。
 あるふぃちゃんは、ぼくをお店のレジへ持っていって、お迎えのお手続きをしてくれた。

 紙袋に入ってる間、青いお姉さん……”あんだいん”ちゃんと、あるふぃちゃんがとっても仲良しだって知った。ぼくは、あんだいんちゃんが持った紙袋の中で、あんだいんちゃんの楽しそうなお顔をずっと見てた。

 あんだいんちゃん、ぼくと一緒だね。ぼくもあるふぃちゃんが大好き。あるふぃちゃんはぼくのこと撫でてくれるし、話しかけてくれるの。あるふぃちゃんとのお話は楽しいんだ。あんだいんちゃんに言いたくても言えない気持ちを、ぼくだけに打ち明けてくれる、あんだいんちゃんへの優しい想いがいっぱいぼくのお腹に入ってきて、暖かい気持ちになるよ。あんだいんちゃんにも、分けてあげたいな。

 あんだいんちゃんは、ぼくのことあんまり触ってくれないし、時々睨んでくるけど、全然怖くない。
 あるふぃちゃんがリビングのテーブルにぼくを置きっぱなしにした時、あんだいんちゃんがぼくを見つけて、やっぱりぼくを睨んだ。

「アルフィーのぬいぐるみか」

(あんだいんちゃん、こんにちは)

「最近アルフィーはお前ばかり構う。私を構えば良いのに」

(さみしいの?)

「別にさみしい訳じゃないけど」

 あんだいんちゃんは、ぼくを長い指でそっと掴んであるふぃちゃんのお部屋に連れてってくれた。優しいんだ。ぼく、あんだいんちゃんも大好き。あんだいんちゃんの、あるふぃちゃんへの愛情は、ぼくのお腹に入ってきて、また暖かくなった。

「あ!おさかなさん!」

「リビングに座ってたぞ」

「有難う。探してたの」

 あるふぃちゃんはあんだいんちゃんからぼくを受け取ると、撫でながら「ごめんね」と言った。いいよ、ぼく、ぬいぐるみだから、どこに座ってても平気なの。

「アルフィー」

 あんだいんちゃんが、あるふぃちゃんを長い腕でぼくごとぎゅうって抱き締めた。二人に挟まれたぼくは潰れたけど、幸せな気分。また、あったかい。

「どうしたの?」

「理由が無いと抱きしめちゃいけないの?」

「ううん」

 ぼくは更にあるふぃちゃんの胸に埋もれた。あるふぃちゃんは柔らかいけど、流石にぼくの頭の綿の形が崩れて、あるふぃちゃんから離れたあんだいんちゃんが、ぼくを見て笑った。面白かったかな? あるふぃちゃんがぼくの頭の形をそっと直してくれる。
 あ、時計のみゅうみゅうちゃんが、夜の時間を教えてくれたよ。あるふぃちゃんはそれを見て、ぼくを抱きしめたまま椅子を立った。あるふぃちゃんにしては、早い時間だけど、もう寝ようね。

「この子を撫でてると眠くなるな」

「そりゃ結構」

「『寝ようよ~』って言われてる気がする」

 それを聞いて、あんだいんちゃんは笑ってた。でも、あるふぃちゃんにはぼくの声が聞こえてるんだって、嬉しくなる。
 ぼくは毎晩あるふぃちゃんの枕元に座って、あるふぃちゃんとあんだいんちゃんが抱き合って眠っているのを眺めて眠る。そうすると、またぼくのお腹にあったかいのが入ってきて、不思議と気持ちよくなっちゃう。

 あんだいんちゃんとあるふぃちゃんの寝息が聞こえると、ぼくはそおっと起き上がって、お尻を持ち上げる。おっとと……。ぼくの足は短いから、転びそうになるけど、最近歩くのに慣れてきた。あるふぃちゃんの黄色い頭にそっと近づいて、いつもぼくにしてくれるように、なでなでする。ぼくは手も短いから、あんだいんちゃんみたいにあるふぃちゃんを抱きしめられないけど、短い手を伸ばしてなんとか撫でる。
 そして、あんだいんちゃんの真っ赤な髪の毛の波をなんとか泳いで、あんだいんちゃんの頭にたどり着くと、またなでなでする。

 こうやって動けるようになったたけど、それもほんの数分。二人がぼくにあったかい魔法をかけてくれたから。

「……ん?」

 魔法が切れて、ぼくの身体があんだいんちゃんの髪に倒れ込む。その音で、あんだいんちゃんが頭を上げた。ぼくはベッドに転がる。

「……」

 いつもの鋭い金色のお目々がぼくを睨む。お月さまみたいなあんだいんちゃんのお目々、きれいだなぁ。
 あんだいんちゃんはぼくとは正反対な長い手で、ぼくをあるふぃちゃんの枕元に戻してくれた。ありがと。
 あんだいんちゃんは少しだけ難しい顔をして、眠そうにあくびをすると、あるふぃちゃんを抱きしめてまた眠っちゃった。

 二人ともゆっくり寝てね。おやすみ。
 
 
 
FIN